宇宙飛行士の野口聡一さんは、二十歳とき「宇宙からの帰還」を読んで衝撃を受けて宇宙飛行士を目指した。今も初版本を大切に保管していて時折、読み返すのだという。
実は、織田裕二さんのヒューマニエンスというNHKの番組が、この本を手にするきっかけでした。
ゲスト出演されていた野口聡一さんが「無重力の世界では、右も左も上も下もない」という話の続きがどうしても聞きたくなって、野口聡一さんの本を数冊手に入れることにしたのでした。
なかでも「どう生きるかつらかったときの話をしよう」野口聡一著が実に面白かった。
野口聡一さんといえば超が付くほどの誰もが認めるエリートで、当然順風満帆といった印象でしたから、本のタイトルとのギャップがよかったし、そこから起死回生を果たしていくストーリーは、その裏付けとなる理論に至るまで説得力もあって興味深い。
つまり、そんな野口さんに多大なる影響を与えた「宇宙からの帰還」を読みたくなっちゃったんだな。
いざ読んでみると緻密で把握しきれないほどの知の結晶を目の当たりにするものだから、正直心を揺さぶられまくってるわけですね。
何人もの宇宙飛行士に取材を重ねているからか、人それぞれ様々なパターンがあって、月におり立ったその体験から人生感が変わっていく。
煌びやかで宇宙の真理を感じさせる成功談ばかりではなく、人間の弱さや帰還後の多忙を極めた苦悩など、今まであまり語られてこなかったであろう面にも言及していて、ある意味人間らしくて、ホッとしたというか、心のバランスが取れたような気分にもなった。
神秘的体験も優れた賢人にしか味わえないものなどではなく、誰もが体験しうる通過点のようにも感じさせてもらえたように思う。
巻末のむすびの項に「総括して結論めいたものを載せようかと思っていたが、何度も読み返しているうちにそんなことはしないほうがいいと思うようになった」と語られた立花隆さんのコメントが印象的でした。
月面に足を踏み入れた宇宙飛行士たちがその後の人生を変えたように、本を読むことによって人生を変えることもあるのだなと、あらためて実感することができました。
この本を書き上げるまでに膨大な取材と時間を費やした著者はもとより、この本に関わったすべての人たちに敬意を評したい、この本を手にした僕はそんな気持ちになっている。